四つの森のおはなし
作 富田房枝




 わたしの住んでいる家のまわりには四つの森があります。でも森には名まえがないので、お
はなしをしようとすると、とても困ります。あの森でね、とか、この森でね、といっても、どこの森
のはなしなのか、ちっともわかりませんもの。そこでわたしは名まえをつけることにしました。山
ばとがたくさん住んでいる森にはデデッポの森。ふくろうがボーボと鳴く森にはボーボの森。黒
うさぎのクローがねぐらにしている森には、クローの森というふうにね。
 さてある日、あとひとつの名まえをなんてつけようかしらと思って、四つの森の間の牧草畑を
行ったり来たりしていますと、
「チョットウコイ、チョットウコイ」
と呼ぶものがありました。ちょっと来いなんて、失札な言いかただと思ったのですが、声があん
まりかわいく聞こえましたし、それにその声は、名まえのない森の中からでしたので、そうっと
のぞいてみました。すると、ギシギシの原っぱの前で遊んでいたコジュケイの子どもたちが、大
きいものから小さいものまで、あわてて草の中にとびこんでいくのを見つけました。子どもたち
は、ギシギシの中にかくれたので、もう安心と思ったのでしょう。葉っばのあいだから、熱心に
わたしを見ています。でも、いくらかくれているつもりでも、上等のビー玉のような目が、つや
っ、つやっと光りますからね。わたしは、「こんにちは」って言おうと思ったのですが、せっかくか
くれているつもりなのに悪いと思ったものですから、みんなをおどろかさないように、そろりそろ
り、森を出てきました。それからまた牧草畑の散歩を続けたのですが、そういえば、うさぎのク
ローの話だと、この森には、ジュッケさんというコジュケイと、そのおくさんと子どもたちが住ん
でいるんでしたっけ。それでわたしはこの森を「ジュッケの森」と呼ぶことにしました。
 これから話すおはなしは、ずうっとあとになって、わたしがジュッケさんご一家と仲良しになっ
てから聞かせてもらったおはなしなのです。




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ジュッケの森のおはなし