金曜日, 2月 24th, 2012 | Author:

「春との旅」という映画を衛星TVで見た。終の棲家を探す旅と番組紹介にあったからだ。On The Roadや行乞記など、ロードストーリーものになぜか惹かれる。山暮らしを選んでおきながら、死ぬときには海辺の街がいいな、などと半ば本気で考えていたりする。

足が不自由な元漁師、孫娘・春との二人暮しだ。都会で自立したいという春の言葉が引金となって、老人は家を飛び出す。不用意な発言で老人を傷つけたと責任を感じる春がその後を追い、二人の道行きが始まる。

知らない土地の風景を見せてくれることがロードムービーの楽しみのひとつだが、この映画では、場所ではなく、名優たちの演技に次々と出会えることが大きな魅力となっている。仲代達也が居候先を求めて、兄弟たちを訪ねて回るという設定で、大滝秀治、菅井きん、田中裕子、淡島千景、柄本明らと二人芝居を繰り広げる。

中でも印象に残ったのが、淡島千景の演技。「ひとりで生きてゆきなさいよ」と仲代を突き放すのだが、別れ際クローズアップされた淡島の眼に異様な力がこもっていて、強烈な存在感を放っていたからだ。

翌日、彼女の訃報に接した。追悼番組として放映されたのではないと思うので、まったくの偶然なのだが、なんだか不思議な気がしてこの映画について書き留めておきたい気になった。

受難と救済というのが道行のパターンだ。孫へ当てつけるかのように、無理な頼みごとをして回るやぶれかぶれの老人。行く先々で兄弟と感情をぶつけ合い、情けなくも人間くさい姿をさらけだす。

この受難劇の第一の観客は春である。主人公が経験を積んで成長してゆく姿を見るのもまたロードムービーの楽しみだが、肉親同士の切っても切れない関係性をみせつけられているうちに、春の心境に変化が訪れる。「憎んでいようが、情けなかろうが、どうしようもなかろうが、向き合えるのが肉親なのだ」と。春は老人に「父に会いに行きたい」と告げる。

母を自殺に追い込んだ父親に対して強いわだかまりがあった春。父に会い、言いたいことを言って、大泣きに泣く。彼女の澱んだ感情がさらさらと流れ出す。その姿を見ている、第二の観客たる私たちにも大きなカタルシスが訪れる。

旅の終わり、家路に向かう汽車のなかで老人は予定通り息を引き取る。役割を全うした満足の笑みを浮かべながら。

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